コラム

パタハラとは?カネカの事例に見る対策・相談の困難さ・日本企業の体質

パタハラとは、育児参加という男性の権利・機会を、職場の上司や同僚が侵害する言動をすることや、該当労働者が不利益を被る可能性のある立場や職務へ処遇することを意味します。マタニティハラスメント、いわゆるマタハラとは対象者こそ異なるものの、ハラスメントの種類としてはパタハラもほぼ同じものだといえるでしょう。

これまでは、社会問題化するマタハラに比べて、パタハラが話題になることはそれほど多くはありませんでした。しかし近年になって、パタハラの実態がメディアの報道などで漏れ伝わってくるようになり、馴染みのない新たなハラスメントとして、にわかに世間の注目を集めるようになったのです。

あらゆるハラスメントをなくすべく、コンプライアンスの強化に努める企業がほとんどのなか、なぜパタハラは起こってしまうのでしょうか?その実態とは?私たちが自分の身を守るため、どのようパタハラ対策をすべきなのか、相談を持ちかける窓口はあるのか?

ハラスメントとして注目を集めるようになった社会的背景、防止に向けた法的整備など、その実態でもあるカネカの事例も交え、パタハラの詳細を解説するとともに、ひとごとではないパタハラに今後、私たちがどう対処すべきなのかを考察していきます。

パタハラとは


パタハラとは、父親であること・父性という意味のパタニティ(Paternity)に対する嫌がらせ、パタニティハラスメントの略称です。つまり、育児のための休暇取得やフレックス・短時間勤務の活用などを侵害する行為がパタハラです。妊娠・出産が業務に支障をきたすとして、女性に退職を迫るなどの嫌がらせをするマタハラと同様、パタハラでも、キャリア形成が困難な部署へ異動を命じるなどのハラスメントを受けるケースもあるようです。

昭和の時代のように、男性従業員が育児参加への意欲を持たなければ、パタハラは起こりようがありません。しかし価値観の多様化とともに、ワークライフバランスを重視した働き方が望まれるようになり、共働き世帯が当たり前になったことで、男性の育児参加への意欲は高まっています。つまり、多くの労働者が、パタハラは自分自身に起こり得る、身近なハラスメントだと気付いたのではないでしょうか?

実際、出産・育児に関するハラスメントは以前から存在していたといえます。しかし、パタハラ・マタハラを恐れて出産・育児自体を諦めてしまう、職場復帰やキャリア形成が困難などの現状は、女性の活躍推進・多様な働き方の実現を掲げる政府主導の「働き方改革」に逆行します。パタハラ・マタハラに関する法整備が行われるのは当然だといえるでしょう。

男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の法改正


少子高齢化が進行する日本において、50年後も人口1億人を維持し、だれもが職場や家庭で活躍できる社会を目指す「働き方改革」では、それを阻害するパタハラ・マタハラを是正しなければなりません。

そのため、2017年1月には男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の法改正が施行されました。簡単に解説していきましょう。

パタハラ・マタハラの定義

規模の大小などの例外なく、すべての事業主はパタハラ・マタハラの防止措置を講じることが義務付けられました。防止すべきパタハラ・マタハラの定義は以下のとおりです。

  • 女性労働者の妊娠・出産について、産前産後休業などの法的諸制度に関する言動により、当該女性労働者の就業環境が害されること
  • 労働者の育児・介護について、育児休業・介護休業などの法的諸制度に関する言動により、当該労働者の就業環境が害されること

マタハラに関してはどちらも該当しますが、パタハラが該当するのは後者のみです。

具体的な防止措置の指針

パタハラ・マタハラの防止措置を講じるにあたっては、厚生労働省から2つの指針が示されています。ひとつは「事業主の方針の明確化、およびその周知・啓発」であり、もうひとつは「相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」です。

事業主の方針明確化に関しては、以下の2点が具体的に挙げられています。

  • 妊娠・出産・育児・介護休業などに関する「否定的な言動がハラスメントの背景になる」「ハラスメントがあってはならない」という方針を打ち出すとともに「制度が利用できること」を明確化する
  • ハラスメントの行為者について、厳正に対処する方針と、対処の内容を就業規則などの文書に規定する

これらの明確化された内容を、管理・監督者を含むすべての労働者に周知・啓発することが求められています。

一方、必要な体制の整備に関しては、以下の4点が具体的に挙げられています。

  • 相談窓口をあらかじめ設置すること
  • 窓口の担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること
  • ハラスメントが現実に発生している場合だけでなく、発生のおそれがある、該当するかどうか微妙な場合でも広く相談に対応すること
  • そのほかのハラスメントと一体的に相談窓口を設置し、一元的に相談を受け付ける体制が望ましい

パタハラ・マタハラ被害が発生した場合の対処

厚生労働省が示す上述の指針2つは、あくまでもパタハラ・マタハラの防止措置に関するものです。それでは、実際にパタハラ・マタハラ被害が発生してしまった場合、どのように対処したらいいのでしょうか?こちらに関しても4つのポイントからなる指針が示されています。

  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
  • ハラスメント行為者に対する措置を適正に行うこと
  • 再発防止に向けた措置を講じること

尚、パタハラ・マタハラに関する防止措置・対処の対象となる労働者は正社員だけでなく、1年以上勤務する契約社員やパート・アルバイト、派遣社員も含まれます。

パタハラの防止措置は機能しているのか?


パタハラ・マタハラに関する法整備が行われ、厚生労働省から具体的な防止措置の指針まで示されていますが、実際にこの防止措置は機能しているのでしょうか?

子育て支援に向けた行動計画を策定し、それをクリアした場合に認証される「くるみん」マークを取得するなど、取り組みを進めている企業も少なくありません。しかし、就業規則にハラスメント防止を明記し、周知・啓発をしていても、人の意識までは急に変革できないのかもしれません。

事実、ライフネット生命保険による調査では、男性が育児休暇を取得することに対する職場の抵抗感は根強く残っており、20.1%もが男性の育児休暇取得を不快に感じると回答しています。

カネカの育休パタハラ騒動


そんななか、化学メーカー大手のカネカ元社員の妻が、2019年6月1日に投稿したTwitterの書き込みが、大きなパタハラ騒動に発展しています。カネカ元社員の男性が育休からの復帰2日目、新居に引っ越してから10日目に、東京本社から関西への転勤を命じられ、結果的に有給取得もさせてもらえないまま、5月31日付けで退職を余儀なくされたという内容です。

労働組合や労働局へ相談し、転勤に違法性はないという見解を得たことを明らかにしてはいるものの、育児休暇取得に対する報復人事、パタハラを思わせる内容はまたたく間に拡散。勤務先がカネカであることが判ると、同社の株価は6月3日に年初来安値を付けるなど波紋が広がりました。

カネカがくるみんマークを取得していたこともあり、6月5日に行われた「男性の育児休業取得の義務化を目指す議員連盟」の設立総会でも、自民党議員からくるみんマーク剥奪を検討すべきとの意見も出されたほどです。

しかし6月6日には、カネカが一連の騒動に対する声明文を発表。自社の対応に問題はなかったこと、転勤に関する自社の配慮が元社員に伝わらず、誤解したままになってしまったことなどの見解を示しています。退職したカネカ元社員が訴えを起こす意思がないこと、カネカ側も元社員に抗議するなどの姿勢を見せていないため、騒動は終息に向かっています。

私たちにできるパタハラ対策とは?


カネカの騒動がパタハラであるかどうかはともかく、出産・育児というライフステージを迎える人々にとって、気持ちよく育児休暇を取得できない職場の雰囲気、報復人事とも思える育休取得後の転勤辞令を受けるなどは人ごとではありません。男性労働者がパタハラ被害を受けないようにするため、自分自身でできる対策はあるのでしょうか?

まず、自分自身から進んで男性の育児参加に理解を示し、育児休暇取得者を積極的にフォローするなどで職場での人間関係を築き、見方になってくれる人をひとりでも多く作っておく必要があるでしょう。一人の力が組織におよぼす影響は大きくはありませんが、意識変革を促すためには小さな動きであっても行動を起こすことが重要です。

もうひとつは、やむを得ない事情で退職を余儀なくされる可能性を考慮し、他社でも通用するスキルを磨く、複業によって複数のスキルを磨くなどで、自分の身を自分で守る意識を持っておくことです。

しかし残念ながら、パタハラを未然に防ぐという意味においては、できる対策はさほど多くないのが現状でしょう。

パタハラ被害にあった場合はどこに相談すべきか?


それでは、実際にパタハラ被害にあってしまった場合、私たちはどうすべきなのでしょうか?当事者だけで思い悩んでいても解決が望めないパタハラ被害では、客観的な助言の得られる相談窓口の存在を知っておく必要があります。

企業の相談窓口

すでに解説したように、パタハラ・マタハラの防止措置が義務化されているため、自社の企業内にはハラスメント関連の相談窓口があるはずです。厚生労働省の指針によって、相談窓口の担当者は一定以上の独立性を持つこととされているため、パタハラを改善させるために尽力してくれるでしょう。

一方、自社内に設置されることの多い相談窓口では、カネカの騒動のように転勤・配置替えなどの不満を相談しても、満足のいく対応は得られないかもしれません。その場合は、自社の労働組合などへの相談も併用すべきです。

各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)

相談窓口・労働組合に相談しても解決の糸口がつかめないようなケースでは、第三者機関に仲裁を依頼するという方法もあります。それが各都道府県労働局内に設置されている雇用環境・均等部(室)です。

相談内容にしたがって、相手先企業へ事実確認をしてくれたり、法律や制度の説明、改善への働きかけをしてくれます。また、両者が紛争状態にあるケースでは、助言や調停の援助なども行ってくれるうえ、匿名での相談も受け付け可能、もちろん相談するのに料金もかかりません。

弁護士

最終的に会社側との合意ができず、裁判に発展するようなことになれば、弁護士に相談することになるでしょう。当然、弁護士費用が必要になりますが、すでにパタハラ関連の裁判で勝訴した過去判例もあり、社会的にもパタハラに関する関心が高まっていることもあるため、相談だけでもしてみる価値はあるでしょう。

実際、モルガン・スタンレー証券の元社員、カナダ人のグレン・ウッド氏が、2017年に同社をパタハラで訴えた裁判が係争中であり、多数の傍聴希望者からの問い合わせが殺到したことで、7月5日に予定されていた証人喚問が延期されるなど、パタハラに対する世間の注目は高まるばかりです。

カネカの騒動はパタハラだったのか?


男性社員の育児休暇取得を露骨に阻害する、明らかな報復人事で嫌がらせされるなど、明確にパタハラであると判断されるケースもあるかもしれませんが、コンプライアンスが重視される現代では、結果的にパタハラに見えてしまったというケースも少なくないでしょう。

たしかに、育休復帰の2日後に転勤辞令を出されるというのは、当人にとってパタハラを受けているように感じてしまうかもしれませんが、カネカの騒動では、元社員も転勤自体には同意しており、企業側も対応の落ち度を認めていません。

これは、カネカが東京・大阪の両拠点に本社を持ち、日本各地に支社・営業所を持つ老舗の化学メーカーであったことに遠因があるといえます。つまり、終身雇用制度を採用する老舗の化学メーカーであるカネカは、従業員の定期的な転勤が前提の人事戦略を展開しており、断定はできないものの、その辞令のタイミングが企業・元社員双方にとって悪かっただけだとも考えられます。

終身雇用・転勤制度からの脱却が必要

パタハラ・マタハラなどのハラスメント防止は、多くの企業で取り組まれており、コンプライアンスを重視する大企業であるほどその傾向は高いといえるでしょう。しかし、育児休暇取得などを阻害するハラスメント自体は周知・啓発によって防止されるかもしれない一方、終身雇用・転勤制度を採用する多くの日本企業では、カネカのような騒動がいつまた発生するかも判りません。

こうした報復人事とも受け取られかねないハラスメントを防止するには、労働者・企業ともに、日本の伝統とも思われている終身雇用・転勤制度から脱却し、グローバルで通用する流動性の高い働き方への意識改革が必要なのかもしれません。

まとめ


カネカの騒動では、相談窓口、労働組合、労働局の雇用環境・均等室いずれの見解も、転勤に違法性は見られないというものでした。この事実を取り上げても、日本企業での終身雇用・転勤制度が労働者に与える影響は大きいといわざるを得ません。しかし、時代の流れは変わりつつあります。

グローバルに対応できるイノベーションを生み出すため、変化の早い市場に柔軟に対応するため、日本が守ってきた終身雇用制度は崩壊しようとしているのです。これは経団連会長やトヨタ会長からの発言でも明らかであり、それにあわせて企業の採用活動も変化しようとしています。

幸い、現在では副業・複業への理解が社会的に深まりつつあり、ライフスタイルにあわせた柔軟な働き方を選択するのも難しくはなくなってきました。パタハラをはじめとしたハラスメントから自分を守るため、変化する雇用環境から自分を守るため、今こそ労働者自身が働き方に対する意識を、自ら改革していく必要があるのではないでしょうか?

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